大阪へやって来た
三週間ほど前に友人のエヌ氏が万博に行こうかなと言い出したので、それじゃあ一緒に行こうぜということで七月の末頃に大阪に行ってきた。
新幹線やら宿やら万博のチケットの手配を全てやってくれたエヌ氏に感謝。
そして、「大阪へやって来た」は旅の内容と一切関係ない友部正人の名曲。
一日目
朝十時に東京駅に集合。 近くのルノアールでモーニングを喉に詰め込んだのちに新幹線へと乗り込み、まずは京都を目指す。
二人が行ったことがない観光名所ということで、まずは三十三間堂へ。 建物の中に入り奥へと進むと山のような仏像と一定間隔に並べられた国宝が出迎えてくれる。 「仏像」というだけである程度のありがたみを感じながら見ないとナァとか、「国宝」ともなれば可能な限り様々な角度から眺めないとナァとか思ってしまうタチなのだが、そんなことを言っていられないほどの量である。 なるべく丁寧に見たつもりなのだが、その数に圧倒されてしまったので、記憶に残っているのが国宝の中でも唯一巨大な「千手観音坐像」だけ。 これを作ったのは運慶の息子の湛慶という人であるらしく、そういえばゴーストオブツシマにも親子の仏師が出てきたなあなどと思った。
三十三間堂を出たあとは、歩いて鴨川を通り、錦市場という和牛やうなぎ串のひしめくインバウンド市場を冷やかし、その後は京都マンガミュージアムへ。 うーん… ミュージアムっぽさもあるけれども、ブックオフ+まんだらけみたいな雰囲気で、あまり好みではなかった…
京都を離れて大阪に向かい、しばらくエヌ氏と別行動。 俺は、マスター自身がお店のサイトを静的サイトジェネレーターで制作しているヘアーサロンへと向かう。 髪をバリカンで刈られながら「ホームページを見て来ました、東京から」と伝えたらホームページ製作にまつわるさまざまなエピソードを聞けて感動。 「あくまでアマチュアとしての製作」とおっしゃっていたが、普通にエンジニアとして勉強になった。
ビシッと決まったヘアスタイルで新世界へ向かい、エヌ氏と再び合流し西成と飛田新地をぶらついた後に、串カツを食べて東横インにイン。
二日目
東横インのモーニングを食べた後に、まずは大阪らしいところをぶらぶらしようということになる。
最初に道頓堀に向かい「たこせん」を食す。 たこ焼きはだいたい六個入りだったり八個入りだったりで結構なボリュームがあって主食っぽい感じになってしまうけれども、たこせんは三つのたこ焼きをえびせんべいで挟んでおり、駄菓子感覚で軽く食べられるのが良い。 その後は道頓堀ライブカメラの前で自分が写っているのを YouTube で見たりと観光客らしい行いをしていたところ、ジョーシンの袋に Switch 2 を入れて持ち歩いている人に目ざとく気づいたので、その人のやってきた心斎橋方向のジョーシンに向かうと「Switch 2 の在庫は店員にお尋ねください」という意味深な張り紙が。 一般的なジョーシンだとカードランクだのの条件の張り紙がされているけれども、もしかして聞けば買えるのかも…?と思ったけれども、Switch 2 を買う気はなかったので聞かなかった。
そのまま心斎橋の路地を歩いていたら、路上で倒れているホスト風の若者がいて、声掛けしても腕を叩いても反応がないので「猛暑の炎天下でこのまま放置はできないよなー」と思って念のため救急車を呼ぶ。 周りはそれなりに人通りがあるものの、倒れている人間に興味を持っている人は俺ら以外にはおらず、大阪も東京と変わらないなと思う。 救急隊が到着したら旅の再開だ。
いくつか大阪の建物系スポットを事前にピックアップしていたが、今回は海遊館へ。 予約なしで行ったので二時間待ちの絶望コースだったが、Google マップで見つけた海遊館近くの BMW 代理店併設のカフェに行ったら、人が少なくて居心地がいいし、ハンモックに揺られながら BMW を見たり海を見たりしていたら、意外とすぐに時間が経ってしまった。 普段は喫茶店で単にのんびりするといったようなことをしないが、そういう機会があるのも旅ならではである。 水族館にはもう十年ほど行ってなかったが、海遊館は今までに見たことのない構造の水族館で面白かった。 メインのジンベエザメの居るエリアは、中央にどデカい円柱状の水槽があって、その周りを螺旋のスロープで少しずつ下りながらあらゆる角度でその水槽を見れるようになっており、あますところなく魚類を堪能できる。
海遊館を出ると結構いい時間になっていたので、日本橋へと移動し炭火焼鳥の店へ。 確かここは TWOSHOT ラジオのお便りコーナーで大阪で食べ歩きが趣味だと言う人が勧めていた店で、噂に違わぬ美味さだった。 「こんだけ美味いなら、明日万博だけど鳥刺し食っても大丈夫だろ!」ということで鳥刺しもいったが、大丈夫だったし美味しかった。(このように俺の Google マップには、気になる店を知ったときにとりあえずピンを打っておくという癖のせいで、どこで知ったのかわからなくなってしまったスポットが山ほどある)
ほろ酔い気分で新世界に戻り、東横インにイン。
三日目
東横インのモーニングを食べたら万博へ。
朝に強くない二人であるため、最速ではない十時入場だったからか、万博までの移動も入場もそこまで混雑していなかった。 周れたパビリオンはフランス、中国、シンガポール、韓国、サウジアラビア、コモンズ館の A B C(ツバル、トンガなど)。 パビリオンは当然ながら基本的にお国自慢的な側面があって「うちの国は歴史と文化と経済と社会が素晴らしくて」みたいなパネルや展示がほとんど必ずあるのだが、韓国パビリオンはそういうのが少なく、いきなりイカゲームが始まりそうな薄暗いだだっ広い部屋に通されて謎のインスタレーションのようなものを体験させられて印象的だった。 ツバルとトンガは .tv .to ドメインのイメージしかないので、どんな国なのか見てみようということで行ってみた。 逆に、特になんとも思っていなかったクロアチアの展示ではゲームが取り上げられていて、それで脱出シミュレーターがクロアチアのスタジオで作られていたことを知った。 こうやって知ってるけれども知らない国を見たり、知らないけれども知ってる国を見たりするのが万博の楽しみ方なのかも。 最後は大屋根リングに上って花火を見て、ウォータープラザのパレードとドローンショーを見て万博は終了。 ドローンショーは初めて見たけれども、空にパキッとした図形が描かれるのが異質感があって面白い。 Flash 的な映像というか EMOMOMO みたいなシャキシャキしたアニメーションが特に映えそう。
万博のおみやげ(自分用)は、ネット上で「誰が買うんだ」と言われていたセブンイレブンのTシャツとエコバッグ。 事前評判の悪さに「みんなこの万博限定のセブンイレブングッズの良さがわからないのか?」と思っていたけれども、現地で着替えて 石のカーテンの下を歩いていたら 知らない外国ニキに「そのTシャツいいね!どこで買ったの?」的なことをいきなり英語で言われて、たじろぎながらも地図を見せて「ヒア。ディスコンビニエンスストアーイズセブンイレブン」と説明したら「そうなんだ!本当にそのTシャツはクールだね!」みたいなことを言ってどこかに行ってしまった(買いたいのかと思ったけれどもそこまでではなかったらしい)。 いきなり話しかけられて驚いたのもあるけれども、英語がぜんぜん喋れなくて少し落ち込んだ。
そういえば万博で一番役に立ったのはヘリノックスのチェアゼロで、これでパビリオンの行列中に体力を回復できたので、ほとんど休憩らしい休憩を挟まずに周れたのが良かった。 これは家にあったのでそのまま持ってきたけれども、少し場所を取るし、組み立て分解も慣れれば一分もかからないとはいえ、もうちょっとシンプルでコンパクトなやつの方が良いかも。
万博会場を西ゲートから出てバスに乗り、新世界に戻ったときにはすでに二十三時という時間で、夕飯を食べられるような店がほとんど開いていなかったので、適当に Google マップで開いている店を調べて粉もの屋に入る。 明らかにレビューの評価が良すぎて怪しいなと思ったが、そもそも開いている店がほとんどないので仕方がない。 味は… まあ、遅い時間までやってることに感謝!
そして、再び東横インにイン。
四日目・最終日
東横インの朝食バイキングも今日で最後。
エヌ氏はもう少し滞在する予定だったものの、体調不良でホテルでダウンしていた。 ピンチな友を置いて家に帰るのはメロスのようで気が引けるが、居たところで何かできるわけでもないので一人ホテルを出る。
最終日はノープランだったが、案には入れていたものの行けなかったホテル近くの場所を周ることにした。
まずは初日にも行った西成へ向かい、九十年ほどの歴史のある喫茶店へ。 ここは大阪で人気の喫茶店チェーンの源流というかプロトタイプのような店らしい(日雇礼子で知った)。 店内では煙草が吸えるが、灰皿はなく床に捨てるというストロングスタイル。 そういう形式の店は、居酒屋では体験したことがあったが喫茶店は初めてだ。
冷コーで涼を取ったあとは、少し歩いてかすうどんの専門店へ向かう。 看板の様子から年季の入った店かと思っていたが、かなり新しい店で驚いた。 しかしそんな新しい店でも、店内禁煙のはずが、常連らしき男性が灰皿を手元に煙草を吸っており「らしさ」を感じる。
腹を満たしたあとは飛田新地を通ってあべのハルカス・天王寺公園へ。 飛田新地では例の棒付き飴を持っている若者を見かける。
あべのハルカスや天王寺公園をヤバイTシャツ屋さんの「天王寺に住んでる女の子」を聞きながら歩く。 聖地巡礼だ。 よく考えてみると炭火焼鳥の店も喫茶店も、好きなコンテンツの中で紹介されていたという理由で訪れているので、俺の旅は聖地巡礼がベースなのかもしれない。 ヘアーサロンも聖地巡礼だった。
天王寺から日本橋まで歩いていき、まんだらけを冷やかすなどしたあと、通りから少し離れたメイド喫茶へ。 内装はメイドメイドしくない普通の喫茶店で、店員がメイドの格好をしているだけというタイプの店だ。 秋葉原ではあまり見ない、オタクっぽくない普通のおじさんが客にいたりして驚く。 担当(?)についてくれたメイドさんに、ヤバTが好きなので天王寺に行ってきた話などをしたら、なんとメイドさんは音楽好きでバンドもやっていて、今度東京にも遠征に来るという。 バンド名を教えてもらったので、帰りの新幹線の中で聴いた。 なんかキュウソネコカミとかヤバイTシャツ屋さんとか初期の岡崎体育みたいなノリの音楽…? みんな関西勢だし、関西勢特有の音楽というのがあるのかもと思ったり。
日本橋のメイド喫茶を出て梅田のシルクレームへ。 ここはソフトクリームのマシンなどを製造している日世というメーカーのパイロットショップだ。 この日世の何が良いかというと 「ソフトクリームが楽しい思い出とともにあってほしい」ということで「ソフトクリームを誤って落としてしまった場合は、無償で新しいものと交換してあげることを店舗にお願いしている」 会社なのだ。 俺はこのポリシーが本当に美しいと感じていて、以前から直営店に行ってみたいと思っていたのだ。 テイクアウトしたソフトクリームに刺さっているスプーンはプラ製だから食べ終わったら捨てるように言われていたが、せっかくなので思い出に取っておいてある。
新幹線の発車時刻がせまっているので、そのまますぐ新大阪へ行ってドラッグストアでカールを買ってホームへと向かう(カールをお土産にするのはメイドさんの案だ)。 この時点で十七時くらいなので、東京へ戻るにはまだ早いけれども、途中で寄りたいところがあるのだ。
というわけで、熱海で途中下車。 駅前に熱海駅前温泉浴場という施設があり、ここは五百円で温泉に入れる。 タオルと石鹸さえ持っていれば、コインロッカー用の百円玉さえも要らない。 小さな温泉で湯船に快適に入れるのは二人か三人程度という感じなのだけれども、十九時も過ぎていることもあって他の客もまばらで快適に入れた。
熱海の夜は早いので小田原へ移動。 以前に行った居酒屋に再訪するも、温泉でのんびりしすぎてラストオーダー終了で入れてもらえず… 仕方がないので、以前の第二候補だった店に入ろうとしたところ「あと十五分でラストオーダーですけど、それでもいいのなら大丈夫ですよ」と言ってもらえ、アジの姿造りなどをいただく。
これで予定はすべてやり切った。 あとは東京に帰るだけだ。 小田原の喫煙所で一服し、小田急線に揺られながら下北沢へと帰る。
零時頃に下北沢に着くと、その人の多さに驚く。 この街は終電まで人が絶えることがない。 この狂気が好きだからこそ、俺は東京に住んでいるのだと思い出す。
家に着いて Lander のリュックを肩から下ろすと、やっと旅が終わった気持ちになる。
明日からまた日常が始まる。 仕事にも戻らなければいけない。
ベッドに横になって「せっかくだから旅日記のようなものをブログに書いてみようか」と考えていたら、いつの間にか眠っていた。