汗を吸って臭くなった椅子を洗う
ある日、いつもどおりに椅子に座ってパソコンに向かうと、何やら異臭がするのに気づいた。椅子の座面を嗅いでみると、牛乳を拭いたあとに放置した雑巾のような臭いがするではないか。
僕は 夏場にクーラーをつけずに生活している というのもあって、めちゃくちゃ汗をかく。そのため、夏場には椅子の座面が汗を吸わないように、尻の下にタオルなどを引いていたのだが、今年の夏は仕事が忙しすぎて、そんなことに気が回らずにずっと素のままで座ってしまっていた。
これが、座面がメッシュタイプの椅子であれば、そんなにも悲惨なことにはならなかっただろうが、いま座っている椅子はよくあるウレタンクッションタイプなので、座面が一夏分の汗を十二分によく吸い込み、その結果、とてつもない異臭を放っているのだった。
このままではまずい。
そう思った僕は、すぐに薬局に行きナノックス(ファブリーズみたいなやつ)を買い、座面に吹きかけた。そのうえで座面を外してしばらく天日干しをしてみたが、一向に臭いは改善されない。
仕方がないので、保証対象外になることを覚悟の上で座面のカバーを外すことにした。座面のカバーの周囲にはしっかりとしたロープのようなものが縫い込まれており、そのロープによって座面に固定されているような形になっていたので、ロープの結び目をほどいてみたところ案外すんなりと外すことができた。しかしロープはかなりきつめに縛り上げた上で結ばれており、元のようにしっかり縛って椅子に固定するのは手動では無理で、何かしらの器具が必要そうに思える。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
カバーを外して出てきた密度の高い低反発ウレタンと思われるクッションを嗅いでみると、カバー越しに嗅ぐ臭いよりも強烈だ。色も黒ずんでいて、いかにもな感じがする。
まず、この時点では根本解消を諦め、ウレタンのクッションをサランラップでぐるぐる巻きにして、臭いが外に出ないようにした。ラップにくるまれたクッションを嗅いでみると、どうやらうまくいったようで臭いが漏れてこない。これにカバーをかけ椅子を元通りに組み立てたところ、少なくともほとんど臭いがしなくなった。
しばらくはこの状態で過ごそう、と思ったが、いずれ根本解決をしなければならない。このまま放置したら本格的にカビたり腐ったりする可能性がある。クッションにサランラップの巻かれた座面は、座ってみるとカバー越しにもサランラップのキュッキュといった感触が伝わってきて少し不快だ。
そういうわけで、それから一週間ほど後に、根本解決を図ることにした。
どうやらインターネットで調べるとウレタンは洗えなくもないらしい。塩素系漂白剤は使えないが、酸素系漂白剤(オキシクリーンやワイドハイタープロ)であれば、そこまでウレタンを痛めることはないらしい。
再び椅子の座面のカバーを外してからウレタンクッションを取り出し、風呂桶に入れる。シャワーを掛けながら足踏みをして押し洗いをしていくと、YouTube で見た「10年間洗ってない絨毯を洗ってみた」動画のように、みるみると汚水が流れていく。さらにワイドハイタープロをふりかけ、クッションの上で足踏みを続ける。ある程度ワイドハイタープロが流れ落ちたら、再びふりかけて足踏みを繰り返す。ネットラジオを聞きながらそれを三回ほど繰り返していくと、先ほどのように汚水になることがなくなり、シャワーから出た水がそのまま綺麗に排水口に流れていくようになった。このあたりで十分だろう。
シャワーを止めてから再びクッションの上で足踏みをし、しっかりと内部の水分を押し出す。ある程度絞れたと思ったが、どうやらまだまだ水分は中に残っているようだったので、しばらく水はけの良いところに立てかけておいた。それでもまだ水分は残っているようだったので、クッションをタオルで挟み、その上から足踏みしてさらに水を押し出す。タオルが濡れなくなるまで何枚かを替えながら水を押し出し続ける。そして、最後にタオルの代わりに新聞紙でクッションを挟み、そのうえで足踏みをする。いつの間にかクッションの端が少し欠けてしまったが、それくらいは仕方がない。これでほとんど水分は抜けたように思えるが、念のためクッションにサーキュレーターで強風を一晩中送り続けた。
翌日にクッションを嗅いでみると、もうほとんど臭いはしなくなっていた。
仕上げにナノックスを吹きかけ、カバーを付け直し、椅子を組み立て直して、そこから二週間ほど経ったのがいま現在というわけだ。
座面を嗅いでみると、まだ少し臭いが残っているようなので、もしかしたらもう一度洗い直したほうが良いかもしれない。